録音とは、その場所に集まった人々の時間そのものを物体化すること

9月23日の録音日ブリーフィング

The Beatles — “Happiness Is a Warm Gun”

  • 録音日: 1968年9月23日〜25日
  • レコード/作品名: The Beatles(通称『ホワイト・アルバム』)
  • なぜ有名・重要か: ジョン・レノンが書いた、複数の曲片をつないだ非常に複雑な構成の楽曲です。9月23日に録音が始まり、この夜だけで45テイクが録音されました。異なる拍子やテンポ、セクションを組み合わせた実験性は、『ホワイト・アルバム』の中でも特に際立っています。(The Beatles Bible)

Hank Williams — “Your Cheatin’ Heart”

  • 録音日: 1952年9月23日
  • レコード/作品名: MGMシングル「Your Cheatin’ Heart」、のちに各種ベスト盤・作品集へ収録
  • なぜ有名・重要か: ハンク・ウィリアムズの代表曲で、カントリー音楽を代表するスタンダードの一つです。1952年9月23日にナッシュビルのCastle Studioで録音された、彼の最後の録音セッションで完成しました。後年、多数のカバーを生み、カントリー史に残る重要曲となっています。(ウィキペディア)

Hank Williams — “Take These Chains from My Heart”

  • 録音日: 1952年9月23日
  • レコード/作品名: MGMシングル、のちにHank Williams作品集へ収録
  • なぜ有名・重要か: 同じ最後のセッションで録音された楽曲の一つで、後にハンク・ウィリアムズ版が大きなヒットとなりました。さらにレイ・チャールズらにも取り上げられ、カントリーとR&Bを横断するレパートリーとして広がった点が重要です。(ウィキペディア)

9月23日は、ビートルズの『ホワイト・アルバム』の実験的なスタジオ録音と、ハンク・ウィリアムズ最後のセッションが重なる、録音史上印象的な日です。

9月23日の録音史ブリーフィング

9月23日は、クラシックでは1964年のカラヤン指揮《レクイエム》のモスクワ・ライヴ、ジャズではキャノンボール・アダレイの『Jazz Workshop Revisited』、ポピュラーではボブ・マーリー最後のライヴ録音が、実際の録音日と場所を比較的明確に特定できる例です。発売日ではなく、9月23日に録音されたセッション/公演を優先しました。

1964年9月23日|ヴェルディ《レクイエム》
演奏者/指揮者:ボリショイ劇場管弦楽団・合唱団、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、レオンタイン・プライス、フィオレンツァ・コッソット、カルロ・ベルゴンツィ、ニコライ・ギャウロフ
録音場所:モスクワ、ボリショイ劇場
この公演は、カラヤンがソ連で指揮したヴェルディ《レクイエム》のライヴ録音として記録されています。西側の指揮者、イタリア・オペラのスター歌手、ソ連の大劇場という組み合わせ自体が、冷戦期の音楽交流を象徴します。カラヤンの大きな弧を描くフレージングと、ヴェルディの劇場的な宗教性が、通常のスタジオ盤とは異なる政治的・空間的背景のなかで保存された点に音楽史的な意味があります。日付・会場・主要メンバーは比較的明確ですが、後年の流通盤は限定的です。(Sizzltek Wiki)

1962年9月23日|キャノンボール・アダレイ『Jazz Workshop Revisited』
演奏者:キャノンボール・アダレイ、ナット・アダレイ、ユセフ・ラティーフ、ジョー・ザヴィヌル、サム・ジョーンズ、ルイ・ヘイズ
録音場所:Jazz Workshop, San Francisco
録音日:1962年9月22–23日
9月23日は二日間のライヴ録音の二日目に当たります。アダレイの陽性のアルト・サックス、ラティーフの異質な音色、ザヴィヌルの和声感覚が同居し、ハード・バップからより開かれた1960年代ジャズへの移行を示す作品です。録音場所がクラブで明記され、日付も複数のディスコグラフィーで一致するため、確度は高い部類です。LPでは、サンフランシスコのクラブ空間における客席との距離、金管の直接音、リズム・セクションの反射を味わえます。(Wikipedia)

1980年9月23日|ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ『Live Forever: The Stanley Theatre, Pittsburgh, PA, September 23, 1980』
演奏者:ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ
録音場所:Stanley Theatre, Pittsburgh
これはマーリーの最後の公演録音として知られる重要なライヴ記録です。アルバム『Uprising』を携えたツアー中の演奏で、マーリーがレゲエを国際的なポピュラー音楽へ広げた最終局面を、舞台上の呼吸とともに保存しています。スタジオ録音の精密さより、声、ギター、リズムのうねりが会場全体へ広がるライブの身体性に価値があります。録音日・会場・各曲の対応はMusicBrainzの記録で明確です。公式流通はCD・デジタル中心ですが、アナログ復刻があれば、低音の持続と会場の残響に注目したい録音です。(MusicBrainz)

1973年9月23日|ブルース・スプリングスティーン『The Wild, the Innocent & the E Street Shuffle』関連セッション
演奏者:ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド
録音場所:914 Sound Studios, Blauvelt, New York
この日は「Rosalita (Come Out Tonight)」の録音、および「4th of July, Asbury Park (Sandy)」「Kitty’s Back」「Incident on 57th Street」の最終オーバーダブが記録されています。スプリングスティーンが、街の物語、若者の欲望、ロックンロールの祝祭性を、アルバム全体の連続した劇場空間へ組み上げていった重要な制作段階です。録音日が曲ごとの制作履歴として残っている点が有用で、914 Sound Studiosの比較的近いスタジオ音響も、LPで聴くとバンドの密度とピアノ・サックスの配置として立ち上がります。(MusicBrainz)

クラシックについて

9月23日に録音されたクラシックの著名なスタジオ盤は、今回確認できた資料では、ジャズやポピュラーほど曲目単位で明瞭に特定できませんでした。したがって、発売日が9月23日のクラシック作品や、録音期間だけがこの日を含む作品は、録音日一致の代表例としては採用していません。近年盤にも9月23日付の作品はありますが、発売日情報と実録音日が混在しやすいため、今回は慎重に除外しました。(Deutsche Grammophon)

今日の聴きどころ

9月23日は、冷戦期の劇場空間、サンフランシスコのクラブ、ピッツバーグの大ホール、ニューヨーク郊外のスタジオが一日に並びます。まずカラヤンのヴェルディで、巨大な合唱とオーケストラが劇場の空気を押し広げる響きを聴き、その後にアダレイを置くと、音場が一気に小さくなり、奏者同士の距離と客席の反応が近くなります。最後にマーリーを聴けば、録音とは単に音を保存することではなく、その場所に集まった人々の時間そのものを物体化することだと感じられるでしょう。

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